
「対比にゾクッとした」
「視点が変わるだけで何もかもが変わる」
「考えさせられた、自分もこれだったのかも」
などのコメントが寄せられ、SNSで大反響を呼んだ理系女ちゃん(@rikejo_chan)の漫画をご存知ですか?
先輩の女性に思いを寄せたものの叶わなかった男性の物語……と思って読んでいると、その先輩の視点から見たときにまったく別の物語が浮かび上がるという短編です。
この物語をもとにして短編オムニバス作品集『あなたの正義 わたしの絶望 ~その「主観」が毒になる時~』の作品が生まれました。自分と他人との間に生じる「認識のズレ」をテーマにした短編の中から、「先輩は綺麗な人だった」の物語をご紹介しましょう。
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「先輩は綺麗な人だった」あらすじ








新入社員の男性には、丁寧に指導してくれる指導係の女性の先輩がつきました。それまで女性に縁のなかった彼は、すぐに先輩を好きになります。何度もデートを重ね、先輩も自分のことを気にしているという自信が出てきました。


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しかし先輩は仕事に追い込まれ、多忙のストレスで体調を崩していきます。彼は何度か仕事を手伝うことを提案したもののうまく行かず、先輩はリモートなどで出社する回数が減り、やがて会社を辞めてしまいました。

彼は無力さに打ちひしがれながら先輩のことを思います…
一方、そんな先輩から見た物語は別の側面を見せます。




男性新入社員の指導係になった女性は、真面目で気難しそうな彼と関わるのに不安を覚えます。苦手なタイプではありましたが、それでもなんとかランチなどで雑談ができるようになって少しホッとしていました。
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しかしそんな矢先、彼女は同僚たちの話を聞いて驚きます。どうやら後輩は自分とつきあっていると思いこんでいる上に、彼女のほうから彼に好意を抱いていると周囲に話しているようで、彼女は怖くなって距離を置くことを決めます。




距離を置いたつもりが逆にしつこく連絡が来るようになり、仕事で忙しいと断るものの効果はありませんでした。そしてある日の飲み会で彼が彼女と相思相愛であると同僚の前で宣言したため、ついに彼女は上司に教育担当を外して欲しいと伝えます。リモートワークにしてもなお連絡をしてくる彼に耐えかねた彼女は、ついに転職を決めて会社を辞めたのでした…。
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「男性の思い出」と「先輩から見た男性の思い出」は、その展開が異なっているだけでなく、男性の容姿の印象も異なっています。前半で描かれていたのはあくまで彼の「自認」の姿であったことが浮き彫りになり、読み進むうちに読者がゾッとするエピソードになっているのでした。
このエピソードについて、著者の理系女ちゃんにお話を伺いました。
「人が真に自身のことを客観視することは不可能」
ーー男性視点から女性視点に変わったとき、女性にとっての「真実」はまったく別物であったことが分かります。やはり女性視点の「真実」が正しいのでしょうか?
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理系女ちゃん:ハラスメントをしたという意味では社会的に男性に非があるのは間違いないでしょう。
しかし、人が覚えていられる記憶には限界があります。過去を振り返る時に、ポジティブな印象を持っている相手に対してはポジティブなエピソードを思い出しやすいし、反対にネガティブな印象を持っている場合ネガティブなエピソードが思い浮かびやすいでしょう。
自分がネガティブな印象を抱いている相手が、常にそうした言動ばかりをしてきたかと言えば、必ずしもそうではないはずです。同じ出来事であっても、見る角度や立場が変われば、その捉え方は大きく異なります。それぞれの主観に基づいた解釈である以上、どちらも「正しい」のだと思います。
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ーー本作は恋愛における男女の「認識のズレ」をテーマにされていますが、こういった「認識のズレ」はあらゆる場面で起こりえると思います。このズレを防ぐ方法はあると思いますか?
理系女ちゃん:昨今、メタ認知という言葉をよく聞きますが人が真に自身のことを客観視するのは不可能だと思います。そのため自分の周囲に意見を聞くこと、尋ねられる相手のいることが重要かもしれません。
ただし、友達はやはり自分と親和性が高い相手になるため自分の味方になりやすいですし、そもそも意見を聞くにしても自分の視点がそもそも歪んでいては正しい情報を相手に伝えられません。
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例え受け入れ難かったとしても、客観的な事実だけを中立的な立場の相手に確認することが、認識のズレを修正するための有効的な手段かもしれません。


ーー 男性視点では好青年のような見た目だった男性が、女性視点では小太りで陰鬱な雰囲気で描かれています。今回のテーマを扱ううえで、このような「表現の工夫」は他にもされたのでしょうか?
理系女ちゃん:セリフの面で言うとナレーションを全く入れなかったことです。それぞれの視点に限定することで中立的な情報を一切排除しました。
絵を描く上では、セリフに合わせてそれぞれがどう見えているのか、自己評価が高い男性は自分を美化してしまう、人に強くあたれない女性は自己評価が低いため自身のコンプレックスが気になる、等を意識して描いています。
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ーー本作は実話をもとに制作されたのでしょうか?
はい。知り合い等の体験を参考に制作したものとなっています。
もともとは大学内でのトラブルを取り上げる目的で制作したので研究室内での人間関係という設定で描いていました。しかし、同様のトラブルはそもそも理系や大学に限ったものではないので、職場内での人間トラブルというより一般的な舞台設定に変更しました。

* * *
「自分は正しい」という思い込みが、いつの間にか誰かを追い詰めているとしたら……。本作が突きつけるのは、誰の身にも起こりうる認識のズレの恐ろしさです。
読み終えたとき、あなたはどちらの「真実」を信じるでしょうか?
※敬称を含むペンネームのため、本来は「理系女ちゃんさん」となりますが、本文中では読みやすさを優先し「理系女ちゃん」と表記しています。
取材=mk/文=レタスユキ
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