
赤ちゃん訪問で出会った、10代の若い母親。頼れる家族も友人もなく、孤立した環境で子育てに向き合うどこか危うい姿に、民生委員のカヨコは過去の記憶を呼び起こされます。それは、小学5年生の夏に突然姿を消した、かけがえのない親友の存在でした…。
母と子が社会からこぼれ落ちていく現実を描いたセミフィクションコミックエッセイ『その叫びは聞こえていたのに 消えた母子をめぐる物語』。著者のきむらかずよさんは、児童福祉を専門とする主任児童委員としてさまざまな親子と関わってきた経験から、この作品を描いたそうです。

赤ちゃん訪問で出会った、10代の若い母親。頼れる家族も友人もなく、孤立した環境で子育てに向き合うどこか危うい姿に、民生委員のカヨコは過去の記憶を呼び起こされます。それは、小学5年生の夏に突然姿を消した、かけがえのない親友の存在でした…。
母と子が社会からこぼれ落ちていく現実を描いたセミフィクションコミックエッセイ『その叫びは聞こえていたのに 消えた母子をめぐる物語』。著者のきむらかずよさんは、児童福祉を専門とする主任児童委員としてさまざまな親子と関わってきた経験から、この作品を描いたそうです。
本作に込めたメッセージについて、きむらかずよさんにお話を聞きました。


地域の民生委員として活動するカヨコが出会ったのは、18歳でワンオペ育児に追われる若い母親・アカネでした。どこか放っておけない存在として、カヨコの心に引っかかり続けているアカネ。そんなある日、スーパーで偶然、買い物中の彼女と出会います。


カゴいっぱいに入っていたのは、菓子パンばかり。その様子を見たカヨコは、「ちゃんとした温かいごはんを食べさせてあげたい」と思い立ち、オムライスを作っておすそ分けすることにします。


アカネの自宅を訪ねると、ちょうど赤ちゃんをひとりでお風呂に入れようとしているところでした。おせっかいだと分かっていながらも、「今、手を差し伸べなければ」と感じたカヨコは、お風呂のお手伝いを申し出ます。気づけば、心身ともに疲れ切ったアカネは、そのままうたた寝をしてしまっていました。

そこへ帰宅したのは、アカネの夫。無愛想で、どこか怒っているような態度に、カヨコの胸には不安がよぎります。気がかりな思いを抱えたまま家を後にしたカヨコでしたが、帰り際、近所に住む女性から声をかけられます。


「ちょっと、あなたお友達?」続けて告げられたのは、「子どもの泣き声と、旦那さんの怒鳴り声がうるさくて迷惑している」という言葉でした。その気になる言葉に、カヨコは何を思い、どんな行動を選ぶのでしょうか。


――今回の作品は社会の中で孤立する母親の姿を描いています。このテーマで作品を描くうえで、特に大切にしたことがあれば教えてください。
きむらかずよさん:母親自身が、どんな環境で育ち、どんな経験をしてきたのか。その背景を、できるだけ丁寧に、そしてリアルに描くことを心がけました。何もかもを母親ひとりの「責任」として背負わせないでほしいというメッセージも、この作品には込めています。子育ては、絶対にひとりではできないものですから。

――「子育ては親が背負わなければならない」というプレッシャーが強い現代社会では、親が孤独になりがちです。この状況を少しでも良くしていくために、必要だと感じることは何でしょうか。
きむらかずよさん:やはり、地域みんなで子育てをするという意識を取り戻し、人と人がつながり合うことがとても大切だと思います。そしてお母さんたちには、「使える支援は、遠慮せず全部使ってほしい」と強く伝えたいです。行政の制度だけでなく、子育て支援団体や地域の取り組みなど、頼れるものはすべて頼って、どんどん周囲を巻き込みまくって子育てしてほしい。実は、孤独なお母さんに手を差し伸べたいと思っている人は、意外なほどたくさんいるんです。

――もし身近に、アカネのように孤立している母親がいたり、近隣から怒鳴り声が聞こえるなど、虐待の可能性を感じる場面に遭遇したら、私たちはどう行動すればよいでしょうか。
きむらかずよさん:地域の民生委員や、子育て支援を専門とする行政窓口、あるいは児童相談所など、どこでも構わないので相談して欲しいと思います。そして、もし「このお母さん、孤立しているかもしれない」と感じたら、まずは挨拶からでいいので、お母さんにも、子どもにも、声をかけてみてほしいです。その小さな一歩が、誰かの心をふっと軽くするきっかけになるかもしれません。

――読者からの反応はいかがでしたか? 印象に残っている感想があれば教えてください。
きむらかずよさん:「深すぎて、いろいろ考えさせられました」「これは全国の市役所の待合室に絶対置くべき!」といった声をいただき、とても嬉しかったです。
――この先、描いてみたいテーマや、挑戦してみたいことはありますか?
きむらかずよさん:求めていただけるテーマがあれば、基本的にはどんなものでも描いてみたいと思っています。その中でも挑戦してみたいのが、私自身が通っていた“底辺高校”時代の話です。いつか作品として形にできたらいいですね。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
きむらかずよさん:日々、本当にたくさんの新しい作品が生まれていく中で、『その叫びは聞こえていたのに 消えた母子をめぐる物語』に目を留めてくださったことに、感謝の気持ちしかありません。本当にありがとうございました。
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子育ては、思っている以上に孤独なもの。誰にも頼れない、弱音を吐けない、支援があることは知っていても「行けない」。そんな気持ちに覚えがある方も多いのではないでしょうか。そうした母親たちの声にならない思いを、丁寧にすくい上げている本作。完璧な母親像を求めるのではなく、「助けを求めていい」「つながっていい」というメッセージが、読後にじんわりと心に残ります。
取材・文=宇都宮薫