
コミックエッセイ『娘が23歳年上の彼氏を連れてきました』は、思わず胸がザワザワしてしまう場面から始まります。女子高生の娘・美月が連れてきた交際相手は、なんと23歳も年上で、しかもかつての塾講師…。状況を知った母・優子は、娘を思う親ならではの本能的な拒否感を覚え、「絶対に赦しません」と断言します。
「自分自身の価値観も、子どもを産む前と後ではまったく違っていた」と語るのは、作者の蟹乃まよさん。今回は、作中に登場する母と父の人物像について、お話を伺いました。

コミックエッセイ『娘が23歳年上の彼氏を連れてきました』は、思わず胸がザワザワしてしまう場面から始まります。女子高生の娘・美月が連れてきた交際相手は、なんと23歳も年上で、しかもかつての塾講師…。状況を知った母・優子は、娘を思う親ならではの本能的な拒否感を覚え、「絶対に赦しません」と断言します。
「自分自身の価値観も、子どもを産む前と後ではまったく違っていた」と語るのは、作者の蟹乃まよさん。今回は、作中に登場する母と父の人物像について、お話を伺いました。


18歳の娘が紹介したいと連れてきた相手は、41歳の男。しかも、美月が中学生の頃通っていた塾の先生でした。
「まともな大人は20も年下の子と付き合わない。ましてや18歳に手を出すなんて」
母・優子はキッパリと交際に反対し、娘の彼氏を追い返します。



それから1週間も娘の美月と話ができずにいました。ネットを検索し、自分の考えを見つめ直そうとしたことも。でも、ネット上のさまざまな意見を読み漁っても、やっぱり納得はできません。



そんなとき、父親の透に「美月の言い分も聞いてあげなよ。もしかしたら本当にいい人かもよ?」と言われ、思い切って美月と話し合う覚悟を決めることに。美月の部屋のドアをノックして、こう言います。

「美月に傷ついてほしくなかった。親としてちゃんと守らなきゃと思った。美月はただ1人の大切な子どもだから」

そっと部屋から出てきた美月と母は、どんな言葉を交わすのでしょうか。

――41歳の男が自宅に挨拶に来たときの「きっっっも」という主人公の反応は、かなり強い拒絶の表現ですね。リアルな反応だなと思うと同時に、同じ母親として思わず共感してしまう部分もありました。この時の優子の気持ちを教えてください。
蟹乃まよさん:あれは完全に「え、なに子どもに手出してくれてんの?」という軽蔑です。親子ほど歳が離れていて、しかも元教え子。状況を整理すればするほど嫌悪感が増していく。そもそも“自分より一回り二回り下の子を恋愛対象として見る”という感覚自体が優子にはありません。
私自身、子どもを産む前は年齢差にそこまで敏感ではなく、「年上って大人で魅力的」という感覚もどこかにあったんです。でも出産後は、年下の方を見ると自然と“守る側”の視点になってしまって。「若いな〜、眩しいな〜」という、どこか親のような見え方に変わりました。
そう考えると、優子ももし子どもを持つ前だったら、ここまで強い拒否感にはならなかったのかもしれません。母になったことで芽生えた価値観が、優子の拒否感をより鮮明にしているのだと思います。


――蟹乃まよさんご自身もお子さんがいらっしゃるとのこと。もしも美月の母親と同じような立場に置かれたら、どうすると思いますか?
蟹乃まよさん:多分…戸惑います。めちゃくちゃ。表面上は「え〜そうなんだ、おめでとう」と涼しい顔して言うけれど、内心は完全にパニック。もし本人が本気で結婚したいと言うなら、娘とお相手の方に許可を得た上で、探偵を雇って経歴などを調べてしまうかもしれません。逆にそこまでさせてくれたら「本気なのかな?」とも思えるかもしれません。
――作品全体の中で、蟹乃まよさんが特に気に入っている、または心に引っ掛かっている セリフを教えてください。


蟹乃まよさん:ありきたりではありますが、「ただ1人の大切な子どもだから」という優子のセリフです。正直、子どもを産むまでは“自分の命よりも大事なものができる”なんて想像していませんでした。でも、子どもが生まれた瞬間、本当に価値観がひっくり返ってしまったんです。
自分や他人の恋愛ごとはどうでもいいけど、子どものことだけは別。傷つくのは最小限にしてあげたいし、そのためなら嫌われてもいい。親ってそういう生き物じゃないでしょうか。
――一方で父親の透は、「美月の人生は美月のものだよ」、「中身よりも年齢が許せないって親として人として正しいのかな?」など、美月の選択を尊重する立場をとっていますね。

蟹乃まよさん:透はどちらかというと“距離を置いて見守る”タイプの父親です。私自身、父がまさに透タイプで、「結局決めるのは本人だよ」というスタンスでした。母親が過干渉気味だったこともあり、その自由さに救われた部分も多くあります。一方で「ちょっと他人事っぽいな…」と父に対して寂しく感じる瞬間もあったので、干渉と放任のバランスを見つける難しさを身をもって実感しています。
正直なところ、母親と父親の“子どもとの距離感”って、生物的・社会的な役割の面でもまだまだ差がありますよね。産むのは母親だし、産休・育休の多くも母親側が担っている現状がある以上、どうしても母子の距離が近くなりやすいのは事実だと思います。
だからこそ、父親が少し引いた位置から見守るスタンスも、ある種の“役割”と言えるのかもしれません。もし両親ともに同じ温度で積極的すぎると、逆に子どもの逃げ場がなくなってしまうこともある。透はその絶妙なバランスの中で、「美月の人生は美月のもの」という距離感を保とうとしている父親像だと考えています。
* * *
娘を守りたい一心で過干渉になりがちな母・優子と、「決めるのは本人」と静かに見守る父・透。この両極の価値観がぶつかりながらも、どちらも“子どもを大切に思う親”であることは同じだと、蟹乃まよさんは語ります。
子どもの幸せを願う気持ち、そして、子どもを信じて手を離す勇気。どれも簡単には割り切れないからこそ、この作品は読者に「もし自分だったらどうする?」と深く考えさせる内容になっています。
蟹乃まよ …漫画家・イラストレーター。第1回「シリーズ立ち行かないわたしたち新人賞」で大賞受賞。主にSNSで育児やワーママあるある漫画を公開している。
取材・文=宇都宮薫