
コミックエッセイ『私はできたから』で「第1回 立ち行かないわたしたち新人賞」大賞を受賞した漫画家・蟹乃まよさん。続く新作『娘が23歳年上の彼氏を連れてきました』は、18歳の娘が“23歳年上の彼氏”を紹介してくるという、なんとも衝撃的な物語です。
ある日、一人娘の美月から「紹介したい人がいる」と切り出された母・優子。中学生のころ、ストーカー被害を受けて男性が怖くなってしまった娘に彼氏ができたことに、優子は胸がいっぱいになります。ところが、いざ連れてきたのは41歳の男性。しかも、かつて美月が通っていた塾の元講師だったのです……。
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今回は、そんな話題作を生み出した蟹乃まよさんに、漫画家をめざしたきっかけや、大賞受賞時の思いについてお話を伺いました。
『娘が23歳年上の彼氏を連れてきました』あらすじ





一人娘として両親に愛されて育ってきた美月。そんな美月が18歳のある日、家に連れてきたのはなんと41歳の男性でした。美月と交際したいという男性は、「必ず幸せにするとお約束します」と、真剣な眼差しで両親に訴えかけます。
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しかし、18歳の美月よりも49歳の母・優子の方と年齢が近いという状況。しかも、相手は美月が中学生時代に通っていた塾の先生だったのです。



「…まだ18歳だよ?こんな子供に手を出すとか…きっっっも」
2人の交際を認めて欲しいという男性に対し、「お引き取りください」とキッパリ跳ね除けた母・優子。



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「この子には未来があるんです。真っ当な大人ならおわかりですよね?」
この日をきっかけに、母と娘の間には大きな亀裂が生じてしまいます……。
ここからは、母と娘の葛藤を描いたこの作品の著者・蟹乃まよさんに、お話を伺っていきます。
登場人物の行動の裏には必ず“理由や経験”がある。根っからの悪人を描かないわけ
――まず初めに、蟹乃まよさんが漫画家になったきっかけから教えてください。
蟹乃まよさん:小学生の頃から漫画やアニメが好きで、漫画のシーンを模写したり、好きな推しキャラの絵を描いたりしていました。漠然と漫画家になりたいという気持ちはありましたが、当時は賞に応募したり本気で目指したりする感じではなくて。高校に入ってからはしばらく絵から離れていましたが、育休の隙間時間で「あ、漫画描こ」と思い立って描き始めました。
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最初は少女漫画や少年漫画を描いて短期連載なども経験しましたが、思ったようには芽が出ず…。その後、第1回「シリーズ立ち行かないわたしたち」新人賞大賞の受賞をきっかけに本格的に漫画家として活動し始めました。

――子育てしながらキャリアを築いた女性の葛藤を描いたコミックエッセイ『私はできたから』で、第1回「シリーズ立ち行かないわたしたち」新人賞大賞を受賞されました。応募の理由と受賞したときのお気持ちを教えてください。
蟹乃まよさん:「シリーズ立ち行かないわたしたち」を知ったのは公式Xで漫画を見かけたことがきっかけです。「どっちが悪いとかじゃなく、噛み合わないことがあるよね…」と、読んでいて深く考えさせられる作品ばかりで興味を持ちました。当時の私は、ジャンルにこだわらず漫画を描いてみたり、動画を作ってみたり、とにかく色々模索している時期でした。そんな時にタイミングよく新人賞の募集ポストを見かけたのです。
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それまで私は恋愛ものやファンタジーなど、フィクション色が強い作品ばかり描いていたのですが、正直どれもさほど評価されませんでした。一方で育児エッセイは、私よりネタが強い人・絵の上手い人が山ほどいて、「ここで戦うのもしんどいな…」と感じることも多くて。
そんな中で、実体験を元に描いた「私はできたから」が評価されたのは、自分のこれまでの経験がようやく意味を持ったように思えて、本当に嬉しかったです。ワーママとして葛藤し、日々のモヤモヤを抱えながら生きてきたこと、そして漫画を諦めず描き続けてきたことも、全部つながったような気がしました。初めて『あ、こういう話を描きたかったんだ』と胸の中でスッと線が一本につながったような感覚でした。
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――大賞を受賞した『私はできたから』、そして今回の『娘が23歳年上の彼氏を連れてきました』、どちらもSNS等で議論になりがちなテーマを、より身近なものとしてわかりやすくストーリー化されています。テーマを取り扱うときに大切にしていることなどあれば教えてください。
蟹乃まよさん:これはずっと決めているのですが、「悪人を描かない」ということです。私はわりと性善説寄りで、「人って基本的に善い部分を持っている」と思っていて。誰かの行動の裏には、その人がそう判断するだけの理由や経験があると思うんです。
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でも、もちろん全てを分かり合えるわけじゃないし、お互いの正義がぶつかり合うことで悪意がなくても人を傷つけてしまうこともある。だからこそ“根っからの悪人”として描くことはしたくないんです。結果的に誰かにとって悪に見えることはあっても、「こいつを傷つけてやろう」という純粋な悪意だけのキャラは描かないようにしています。

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自分の経験を作品へ落とし込んだ『私はできたから』で大賞を受賞し、続く新作では、より多くの人が考えさせられるテーマに挑戦した蟹乃まよさん。どんなに対立が起きるテーマでも、登場人物を“悪人”として描かず、「その行動の裏にある理由や背景」を丁寧に見つめていく。蟹乃さんの作品が読む人の心にスッと寄り添うのは、この姿勢が根底にあるからこそなのかもしれません。
著者プロフィール
蟹乃まよ …漫画家・イラストレーター。第1回「シリーズ立ち行かないわたしたち新人賞」で大賞受賞。主にSNSで育児やワーママあるある漫画を公開している。
取材・文=宇都宮薫
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